2013-03-22

大学に入るまでと,大学に入ったあと

去年まで,名の通った予備校のスタッフとして働いていたんだけど,
そんな去年の3月,受験を1年後に控えた高校2年生40人くらいを前に,僕は最後の勤務を迎えて.
最後に生徒に伝えたことを,改めて書いておこうと.

ひとつは,受験生として1年間「大学の名前にこだわってほしい」こと.
受験が,高校生にとって必要なものかは,僕は当時もわかんなかったし,
いまでも分からない.
受験に注ぐエネルギーで,もっと他のことが出来るかもしれない.
でも,受験を経て,他では得られない経験値を手に入れることもあるだろう.
どっちが偉いでも,かっこいいでもないと思う.
でも,受験をするって決めたんだったら,とことんやってみようよ,と.
受験するって決めて,その受験に一生懸命になれない人が,
他の何かで,力を出し切れるわけがない.
厳しい道でも,自分の決めた目標に,強くこだわって欲しい,と伝えた.

そしてもうひとつ,大学に入ったら「大学の名前にはこだわらないでほしい」こと.
それが,僕が伝えたことだった.
君たちが1年間,もしくは2年間懸命に目指して手に入れた学歴というブランドは,
入った瞬間,意味がなくなるんだと.
今の僕に言わせれば,むしろ自分から良い意味で学歴の壁を崩せば良いとさえ思う.
予備校の職員がこんなことを言って良かったかは今でもわからないけど,
僕はこのことを,高校2年生だった彼らに伝えたかった.

僕は大学生になってから,お寿司屋さんのフロアや,洋服屋さんの店員もやってきた.
きまって,「そんな頭がいいのに,なんでこんなところにいるの?」と言われた.
僕に言わせれば,軽々とフロアの客誘導をするおばちゃんや,
寸分の狂いもなくジーンズを畳むお姉さんの方が,
僕のウン百倍も能力を持った,頭のいい人間だった.

昔の恋人は,志望する大学を共有し,一緒に目指した仲だった.
僕が負けないようについていったのに,気づけば僕が合格し,
彼女は併願した大学に進学することになった.その大学で,あれもこれもそれもと,
千手観音のようにいろんな活動に手を出して,
全部やり切っちゃうようなスーパーウーマンだった.
きっと,社会人になった今もそうだろう.
それでも,僕の前で「あーあ,お前の大学行きたかったなぁ」って,
そんなんじゃなくてもっと上品な口調だったけど,そう言っていた.
なんで僕が合格したんだろうって思ったことばかりだった.

自分が必死こいて入った大学だったけど,
おもいっきり僕を失望させてくれる人間もたくさんいた.
自分が望んだゼミで,提出物も出さなければ遅刻して平気な人間も,
単位の取得に他人の力しかアテに出来ない人間も,
教室をありえないくらい散らかす人間もいた.

関係ないんだ,どれだけ力を注いだとしても,受験でどんだけがんばったかなんて.
受験を頑張った子たちには,そのことに早く気づいて貰いたい.
もちろん,僕のおせっかいなんて関係ない人が,ほとんどだろうけど.
頑張って念願かなった人も,
惜しくも持てる力を発揮しきれなかった人も,
そんなの関係なしで,自分がかっこいいと思う生き方を
すればいいと思うんだよね.
脳ミソは鍛えればどれだけでも強くなるし,
まだ会ったことのない人,見たことのない景色が,世界にはたくさん広がっている.
それを信じて,大学の4年間を自由に過ごしてほしいな,という気持ちを込めて
生徒に話しかけた…つもり.どれだけ伝わったかは知らないけど.

さて,去年面倒見ていた彼らは,どうなったのかな.